ある愛の詩 / 新堂冬樹

ある愛の詩

ある愛の詩

心に傷を負い、ヒトの前には姿を現すことの無いイルカの「テティス」。そのテティスが気を許して姿を現すのは純粋な心を持つ親友「拓海」の元だけ。そんな2人の元に現れた1人の女性「流香」。彼女の歌声は、今までヒトと関わろうとしなかったテティスの心を動かし、彼女の元に姿を現した。拓海と流香の運命的な出会い。しかし流香は愛を信じられない、心に闇を抱えていた。そんな彼女を救いたいと、拓海は東京の街へ出てくるが、そのあまりに純粋すぎる優しさと行動が、逆に流香の心を惑わせてしまう。
「忘れ雪」とは一転、完全なる純愛ストーリー。お互いに惹かれ合っているはずなのに、どうも上手くいかない。ありきたりの恋愛小説のように見えて、実はそれ以上の何かを感じるものがある。きりの良いところで読み止めようと思いつつも、そのまま何処までも引き込まれていってしまう、気が付いたらそのまま読み終わっていた、といった感じ。
村山由佳の「青のフェルマータ」と感覚的に似たものを感じたのはやはりイルカの登場のせいだろう。イルカの表現をここまで上手く書かれると、まるで自分自身がその場にいるような感じにさせられる。そこがストーリーに引き込まれてしまう原因の1つなんだと思う。自分が泳げないくせに、泳ぎたくなってしまった。
読み終わった後、凄く気持ちが良かった。拓海くらい純粋な気持ちを持つ男性に憧れつつも、忘れ雪の時と同様、やはり自分は女性・流香の方の性格に近いなと思った。新堂氏の作品に登場する女性像はあまりにも自分に似すぎている。それは自分自身が男らしくない女々しい心しか持っていないからだろう。
少なくとも、これを読んで自分自身が少しだけ変われるような気がする。変われる自信が少しだけついたような気がする。本当に読んで良かったと思える1作品。
これは個人的意見だが、もしこれを映像化するとしたならば拓海役は藤原竜也、流香役は柴咲コウ辺りがピッタリなのではないかと。